新型コロナで社会的な不安が高まる中、フェイスブックやツイッターでこんな画像が拡散されています。
「恐れを克服して成長しよう」というこの図の主張に対して、
「政府の無能に怒りをぶつける権利を奪うのか?」という反論が上がっています。
さて、この対立するように見える2つの立場ですが、実際のところはどうなのでしょうか。
恐れを克服して成長する
図に書かれた言葉をぼくなりにまとめたものがこちらです。
1. 恐れのゾーン
(1) 買い占めをしていないか
(2) 恐れや怒りの感情をまき散らしていないか
(3) 頻繁に不平不満を言っていないか
(4) ソースを確認せず、不確かな情報を拡散していないか
(5) すぐ怒る
2. 学びのゾーン
(1) コントロールできないものを手放す
(2) 食べ物でもニュースでも自分に外のあるものはやめる
(3) 自分の感情に名前をつけて確認する
(4) 状況を自覚して行動を考える
(5) うっかりデマを拡散しないように、情報のソースを確認する
(6) 誰もがベストを尽くしていることに気づく
3. 成長のゾーン
(1) 他者を助ける方法を考える
(2) 自分のできることを必要な人に届ける
(3) 今を生き、未来にフォーカスする
(4) 自分を大切にし他者にも共感する
(5) 他者に感謝する
(6) 幸せを大切にし希望を広める
(7) 変化に適応する道を探す
ここに書かれていることは、精神的な成長というような心理学的話題について考えたことのない方にとっては、違和感を覚える点も多いかもしれません。
たとえば、
2. 学びのゾーン
(1) コントロールできないものを手放す
などはただ読んだだけでは意味もよく分からないでしょう。
けれども、
2. 学びのゾーン
(4) 状況を自覚して行動を考える
ならば、恐れのままに無自覚に行動(たとえば買い占め)するのではなく、気持ちを落ち着けて自覚的に行動しよう、というわけですから、まったく当たり前のことを言っているにすぎません。
また、
3. 成長のゾーン
(5) 他者に感謝する
という項目は極めて倫理的な主張に思えるでしょうが、これは
「他者に対して感謝する気持ちが自身の幸せな感情につながる」
という心理学的な知見にもとづくものです。
全体的に見て、この図で述べられていることは
「マインドフルネスなどのモダンな心理学が提唱している幸せの条件」
を書き出したものであり、実際に効果のある「処方箋」だと言えます。
もちろん人によっては詳しく検討しても違和感を抱く場合があるでしょうし、そういう人に押しつけるようなものではないことは言うまでもありません。
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弱者の怒る権利を奪うな!
さて、その「成長の図式」に対して、次のような強い否定をする方がいらっしゃいます。
この画像を肯定的にシェアしてる人は正直言って相当おめでたい。今日本で必要なのは「すぐ怒る」一択です。
dayoさん
dayoさんは音楽関係のパンクな方らしいので、
「弱者には怒りを爆発させる権利がある」
という理解をすれば、その主張はよく分かります。
また、
これって右に行くにしたがって成長してるわけではなくて、ものを言わない人間になってってるだけだな。ものを言うべき時に言わないのは大人のすることではない。
平野太一さん
こちらの平野さんも音楽関係の方で、「もの言わない大人になるな」という主張は分かります。
けれども問題の図が「成長ではなく、ものを言わなくなってるだけ」と断定するのは、相当片寄った理解の仕方というものでしょう。
3. 成長のゾーン
(1) 他者を助ける方法を考える
という項目を文字通りに理解すれば、
「怒りを爆発させるしかない他者をどうすれば助けられるかを考えよう」
と言っているのですから、それは「もの言わない態度」とは正反対のものです。
「怒りを抑圧するな」という主張自体は大切なものですが、落ち着いて一つ一つの項目を確認することもせず、ミソもク○も一緒にして全部を放り捨てるような態度は、まさに「恐れのゾーン」で怒りに任せて行動してらっしゃるように見えてしかたありません。
無論そのように怒りを爆発させる権利も尊重せねばなりませんので、ここで「こうしたほうがいい」とか、「こういうのはやめといたほうがいい」とか、余計なことは申しませんけれども。
「社会的な働きかけ」と「ネガティブな感情」の大切さ
「成長の図式」に対して「社会的な働きかけ」が欠けているという指摘をする人もいらっしゃいます。
個人の内面的な成長だけに目を向けるのではなく、社会の変革への視線も必要だというわけです。
図式自体はあくまで心理学的な視点から内面の成長の大切さを主張しているだけので、社会変革が不要だと言っているわけではありません。
3. 成長のゾーン
(1) 他者を助ける方法を考える
に注目すれば、当然社会変革も一つの選択肢として出てきます。
社会変革への選択肢は、民主主義的な考え方としてはまったく正統的な主張であり、心理学的な視点に加えて民主主義的な視点も持つことで、バランスのよい考え方ができるようになるでしょう。
また、「成長のゾーンでポジティブな感情だけしか認めていない」点に違和感を感じる、という主張もあります。
成長するためにはネガティブな感情も抑圧せず、十分に味わう必要があり、そうすれば自然にポジティブな感情が湧いてきて、困難を乗り越える力が得られる、というのです*1。
この意見にはまったく同感です。
実際マインドフルネス心理学のベースになっている仏教の瞑想法では、ポジティブであれネガティブであれ、心に浮かんだ感情を一切否定することなく、ただ観察することに徹します。
そうした練習を通してネガティブな感情にとらわれることをやめ、他者に対する共感や感謝の気持ちを育てていきますので、図式はこの点においても心理的な成長の要約として十分に役に立つものです。
ただ、簡略化した図式の中に、こうしたネガティブを抑圧しないという点まで取り入れるのは難しいことですので、その辺りは説明するときにはそういう点にも注意するということが必要かと思います。
以上、ざっと「成長の図式」について検討しましたが、
・怒りの表現を否定するものではないし、
・社会的変革を軽視するものでもないし、
・ネガティブな感情を抑圧するものでもない
ことを理解していただくことができたら、この小文を書いた甲斐があったというものです。
てなわけでみなさん、ナマステジーっ♬