+魂の次元+ (by としべえ)

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トイレットペーパーはなぜなくなるのか - デマと噂の行動経済学

みなさん、新型コロナウイルスの騒動で、不安を感じながら日々をお過ごしでしょうか。

また、トイレットペーパーが手に入らず困っている方もいらっしゃるかもしれません。

今や、政府の発表もメディアの報道も、眉に唾をつけて疑わざるをえない時代です。

そんな時代の中で、賢く生きるための一助になることを祈って、この記事では
「なぜデマや噂は広がるのか」
そして、
「それに対してどう向きあえばいいのか」
を考えてみたいと思います。

f:id:suganokei:20200310105430j:plain** デマはなぜ広まる? 不安の心理と人間行動

今回の「コロナ騒動」では、マスクとトイレットペーパーが店頭から消えるということが起きました。

マスクはウイルスを防ぐためにはあまり役立ちませんし、トイレットペーパーがなくなるというのは完全なデマです。

どちらも不安にかられた多くの人が、必要性の低いものをたくさん買うことによって、本当に必要な人が手に入れることが難しくなり、社会問題になってしまったわけです。

いつもは理性的に行動している人でも、強い不安・怒り・恐怖を感じると理性的な行動ができなくなります。

これを扁桃体ハイジャックと言います。

脳の中で感情を担当している扁桃体という部分が、その人の行動全体を支配してしまうことを、飛行機のハイジャックに例えた表現です。

※扁桃体ハイジャックについて詳しく知りたい方はこちらの本をどうぞ。
ダニエル・ゴールマン 「EQ こころの知能指数」
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ふだんから不安感の強い人は、「トイレットペーパーがなくなる」と聞いただけで、その情報の正しさを確認する前に「今のうちに買っておいたほうがいいのかな」と考え始めてしまいます。

ここで追い打ちをかけるのがテレビなどの報道です。人間は視覚的な情報を重視するし、映像に反応しやすいからです。

アメリカの心理学者メラビアンが提唱するメラビアンの法則は、非言語コミュニケーションの重要性を説くもので、その実験結果によると、
「言語情報は7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%」
となっており、視覚情報が最大です。*1

これは対面でのコミュニケーションを想定した実験ですので、誰かがあなたに
「トイレットペーパーがなくなるらしいよ」
と話しかけてきたときに、その人の

・「表情や動作」が一番重要で、
・「声の調子」が二番目、
・「言葉の内容」は一番あとになる、

というものです。

これを一般化して考えれば、同じ「トイレットペーパーがなくなる」という話を聞くにしても、

1. ツイッターで見る
2. ラジオで聞く
3. テレビで見る

の三通りの場合、1. < 2. < 3. でテレビで見る影響が一番大きいことになります。

ツイッターでたまたま「トイレットペーパーがなくなる」というデマを見かけて不安に思っていた人は、テレビを見てさらに不安を煽られれば、自分も買い占めに加担してしまいかねないわけです。

というわけでテレビ関係のお仕事の方にお願いです。

こうした心理学的情報を踏まえ、人の不安をあおりかねない報道はどうか控えてください。

「トイレットペーパーが売り切れ」を強調する画像を流すことは、誰のためにもなりません。「工場や倉庫にはたくさんのストックがある」ことを、映像ではっきりと伝えるようにしてください。

こうした倫理的な報道基準がきちんとなされるような社会になってほしいなと、切に願うものです。

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なぜトイレットペーパーなのか?

マスクが買い占められたことについては、ウイルスのついた手指で口や鼻に触ることを防ぐことができますから、一定程度の予防効果はあり、また心理的な安心感もありますから、これを買っておきたくなるのは分かりやすい面があります。

けれどもほとんど関係のないトイレットペーパーが売り切れてしまうのはなぜなのでしょうか。

1973年の石油ショックのときもトイレットペーパーの買い占め騒動が起こりました。

これは生活必需品であるトイレットペーパーが、
・「もしなくなったら困る」
という不安の心理と、
・「どうせ使うものだからたくさん買っておいても困らない」
という安全性確保のための心理が重なることで、買い占めの対象になりやすいのではないでしょうか。

どちらもごく自然な感情であり、多くの人がこのような気持ちから「買い占め」に加わってしまうことはある意味「合理的」でもあります。

(実際に品薄になれば、実害があるのですから、それを事前に防ごうとするのは合理的な行動です)

つまり、デマによる買い占めというやや特殊な人間の消費行動は、古典経済学が仮定してきたような静的な合理性によるものではありません。

感情によっても大幅に左右される動的な合理性をもつものであり、行動経済学が主張するように心理的な要因を検討することが大切になります。

また「囚人のジレンマ」に見られるようなゲーム理論的な考察も有効でしょう。

「囚人のジレンマ」は、本当は協調しあったほうがお互いに益がある状況なのに、相手と意思疎通ができないために、「合理的な選択」の結果裏切り合いが生まれてしまうというジレンマで、買い占めのケースはこれに当てはまります。

一回きりの「囚人のジレンマ」では「裏切り」の選択肢が合理的なのですが、これを繰り返し行なう場合は「協調」戦略も有効であることが実験で示されています。

※「繰り返し囚人のジレンマ」ゲームで協調戦略が生まれうる可能性については、次の本が示唆的です。
アクセルロッド「つきあい方の科学:バクテリアから国際関係まで」
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あなたの落ち着きがデマを防ぐ最大の武器です

買い占めをする人を批判することは簡単ですが、それは状況を変える役には立ちません。

現に品物がなくなって困る以上、買いたい人はやはり買うのです。

また、トイレットペーパーの生産には問題がないのに流通がネックとなって品不足が起こることを、完全になくすことは不可能に近いことです。

とはいえ行政や業界が協力して、できるだけスムーズな供給を心がけるように、お願いしたいものですが。

そして最終的に頼りになるのは、あなた自身の落ち着いた気持ちです。

これを読んで下さっているみなさんは、初めから冷静に事態を見守っている方がほとんどだろうと思います。

冷静に見守りながらも、やはり不安はあるし、「何かいい解決方法はないだろうか」とお考えになっていることでしょう。

残念ながら、
「そういういい解決方法はない」
というのが今のぼくの結論です。

もちろんひょっとしたらどこかに「いい解決法」はあるかもしれませんから、それについて思いを巡らせ続けることは大切なことでしょう。

そして同時に、とりあえず今「いい解決法がない」以上、この「人類の集合知の限界」を素直に受け止めて、
「あら、みなさん、大変ね」と思いながらも、
「紙がなくなったら水で流せばいいじゃない」くらいの気持ちでいることが、デマに向き合うための一番の武器になりうるはずだと思うのです。

新型コロナウイルスが蔓延すれば、トイレットペーパーどころの問題ではなく、高齢者を中心に死亡者が急増するおそれもあります。

そうならないようにするには、どうしたらいいのか。

政府がほとんど無策であることを、むしろいい勉強の機会にしましょう。

感染症を防ぐためにはどうしたらよいかを基本に立ち返って勉強し、実践することは、生ぬるい現実の中でふやけた私たちの心と体に喝を入れて、新しい活力を呼び覚ましてくれるに違いありません。

ウイルスだけでなく、さまざまな難問が山積みのニッポンの今にめげることなく生きていくために、一人ひとりの人生の知恵が問われているのだと、大上段に振りかぶった言葉を発して、この記事の締めくくりとします。

てなわけでみなさん、ナマステジーっ♫

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